読み直し日記

2015年3月16日 (月)

ロマンチックすぎる物語

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 久しぶりに読みたいなあ、と思っていたら、池袋の古本屋さんでうまいぐあいにめぐりあったのが、モーリス・ルブランの『八点鐘』(新潮文庫)。かの『クイーンの定員』にも選ばれたこのミステリ短編集を、高校生のころ、堀口大學の訳だとも気づかないままに読んだ覚えがあります。

 そのときのお目当ては、古典的な名作『雪の上の足跡』に代表される、不可能犯罪のトリック。でも、それから約30年。すっかりおじさんになって読み返してみると、また違った味わいがありました。「プロット」といえばいいのでしょうか、1つ1つのお話の組み立て方が、なかなかおもしろいのです。

 たとえば、『映画の啓示』では、映画俳優の起こした事件を、映画をなぞって追いかけていきます。初版刊行の1923年当時、映画はまだまだ新しいメディアだったはず。時代の潮流に乗ったこの思いつきに、ルブランはさらにひとひねりした結末をつけています。

 また、『ジャン=ルイの場合』は、ある女性の自殺未遂で幕を開け、謎めいた婚約者の存在へと、読者を引っ張っていきます。ホームズやルパンの時代にはいかにもありがちな展開ですが、その婚約者の素性というのが、ミステリらしくもない、なんとも奇妙奇天烈なもの。おもしろいことを考えるなあ、と思っているところに、ルブランはさらに背負い投げを食らわしてくれます。今回の読み返しで、最も楽しめたお話でした。

 考えてみれば、高校生のときに読んで印象に残ったのも、結局のところは、探偵役のレニーヌ伯爵ことアルセーヌ・ルパンが想い人の心を得るために冒険をくり広げるという、全体のロマンチックすぎる筋立てでした。ルパン・シリーズが広く愛された理由は、そういう組み立てのうまさにあるのでしょう。

 ただ、その人気も、最近では衰えてきているようで、この新潮文庫を含め、絶版が増えています。古いもの好きのぼくとしてはなんとも悲しいのですが、現代の読者からすると、古色蒼然とした物語にしか見えないのでしょうねえ……。

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