« つわものからのお呼ばれです! | トップページ | 山本有三と憲法の口語化 »

2016年7月 2日 (土)

誤用の伝統

 出版社で働いていたときのこと。あるライターさんからいただいた御原稿に、「キラ星(ぼし)のごとく」という一節がありました。

 これは、本来は「綺羅(きら)、星(ほし)のごとく」。「綺羅」とは、まばゆく輝く衣服を指します。そうご指摘をしましたら、そのライターさんからは、「キラ星(ぼし)」は国語辞典にも載っています、とのお返事をいただきました。

 調べてみると、国語辞典にはたしかに「きらぼし」という項目があって、「綺羅、星の如し」から生まれたことばだと載っています。なるほど、と思って、そのままにしておいた次第でした。

 「きらぼし」ということばは、いわゆる「誤用が定着したもの」の例。それをわざわざ指摘するなんて、今となっては少し恥ずかしい、若さゆえの過ちですね。

 ただ、「誤用が定着したもの」を受け入れつつも、いつごろから定着したのかが、ちょっと気になるところです。

Photo

 ここで話はとんで、ここ数日のこと。

 ずいぶん前に古本屋さんで購入したままになっていた、小室信介『東洋民権百家伝』(岩波文庫)という本があります。1883(明治16)年から翌年にかけて出版された、江戸時代の農民一揆について書かれた本なのですが、それを読んでおりましたら、「きら星(ぼし)のごとく」が出てまいりました。

 農民たちが一揆を起こしたと聞いて、警備を厳重にする宿場町の場面。提灯やたいまつなどが「雲母星(きらぼし)の如く輝きて、さながら白昼(ひる)をあざむくばかり」とあります。

 「雲母」とは「きらら」とも読みますから、「雲母星」で「きらぼし」と読ませるのは、当て字の一種なのでしょう。ここには、本来は「綺羅、星の如く」であるという意識は、まったく見られません。

 となると、この「誤用」、現時点では少なくとも130年以上の伝統はあるわけです。だったらもう、目くじらを立てることはないですよね!

|

« つわものからのお呼ばれです! | トップページ | 山本有三と憲法の口語化 »

漢字・ことば」カテゴリの記事

コメント

先生、こんにちは。
「綺羅、星の如く」
誤用ではないですが「一・衣帯・水」を思い出しました。
夏目漱石は誤字で有名でしたよね。
割と明治あたりの作家さんからの誤用って多いのでしょうか?
結構自由に漢字を使っているような印象があります。
しかしそれより
先生の読書の傾向に興味が湧きました。(・∀・)ニヤニヤ

追伸・・コメント欄枠外に謎の顔文字があります。
    それを押してみたら顔文字使えました!

モフモフ

投稿: モフモフ | 2016年7月 2日 (土) 11時58分

モフモフさん、いつもありがとうございます。
漱石先生の漢字の使い方は、後世にまで影響を与える誤用というよりは、その場限りの当て字ですね。きっと、こだわりがなかったんでしょうねえ。
私の読書は、いろいろつまみ食いですよ。昨日、読み終わったのは、図書館から借りてきたケストナーの「点子ちゃんとアントン」でした。

投稿: 円満字 二郎 | 2016年7月 3日 (日) 09時50分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1639146/66306028

この記事へのトラックバック一覧です: 誤用の伝統:

« つわものからのお呼ばれです! | トップページ | 山本有三と憲法の口語化 »