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2013年12月

2013年12月22日 (日)

たった1文字の中に

 「各党は都知事選挙の候補者選びを加速化させています」

 そんなニュースを聞きながら、以前から気になっていた「加速化」ということばについて、考えてみました。このことば、どうも落ち着かない気がしてならないのです。

 「化」とは、何かの状態が変化する/何かの状態をさせることを表す漢字です。そこで、「本格化」「一般化」「液状化」などなど、「○○化」という熟語は、「○○という状態に変化する/変化させる」という意味になります。

 一方、「加速」とは、「速度が速くなる」という状態の変化を表します。つまり、「加速化」ということばは、もともと状態の変化を表している熟語に、状態の変化を表す「化」がくっついているわけです。そこが、落ち着かない気分を感じさせる原因なのでしょう。この場合には「化」は不要で、「候補者選びを加速させています」で十分だからです。

 同様に考えると、「人口が減少化する傾向」とか「空港を拡張化する工事」なども、「減少する傾向」「拡張する工事」でよい、ということになります。いわゆる「誤用」というやつですね。

 ただ、それでも「加速化」ということばが一般的によく使われるのには、それなりの理由があるはずです。そこまで考えてみないと、「誤用」の問題はおもしろくありません。

 なかなか進まない現状に対して、なんとかスピードアップを図りたいという気持ちが強く存在している。そんなとき、単なる「加速する」では物足りず、なくてもよいはずの「化」を思わず付け加えてしまうのではないでしょうか。

 「減少化」だって、同じです。人口が減少するのは問題だという意識が、このことばの背後には貼り付いています。「拡張化」になるとかなり微妙ですが、空港を拡張してもっと便利にしたいという気持ちの現れだと見ることも、不可能ではないでしょう。

 現状に対する不満や、未来の状態への希望。ちょっとおおげさですが、「化」というたった1文字の漢字にも、そんな気持ちが反映されていることがあるのです。

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2013年12月15日 (日)

いろいろ試したんだろうなあ……

 発売されたばかりの『三省堂国語辞典 第7版』が届きました。お付き合いのある編集者さんが、お送ってくださったのです。

 早速、ページを開いてみました。今回は組版システムを変更したと聞いていたのですが、その影響は感じられません。【 】を使わないすっとした印象の紙面は、健在です。

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 ただ、しばらく眺めていてまず気がついたのは、ダッシュが細くなったな、ということ。

 たとえば「すっと」の項目で、用例として「すっと立ち上がる」と記述したい場合、国語辞典では、「すっと」の部分をダッシュにして、「—立ち上がる」とするのが、一般的です。このダッシュが、第6版ではけっこう太めで、実は、ちょっと目立ちすぎるかなあ、と感じていたのでした。

 また、項目内の大区分で使われている四角数字も、この版からは白抜きの網掛けに変更。旧版ではただの四角数字だったので、こちらはちょっと目立つようになりました。

 こういう記号類は(業界用語では「約物(やくもの)」と呼んでいますが)、辞書編集部が意外と気を遣うところです。色刷りにすれば目立つしアクセントになりますが、あまりたくさんあると紙面がチラチラした印象になります。太字や白抜きも同様で、使いすぎるとゴロゴロしてきて逆効果。バランスのいいところを目指すわけですが、なかなかうまくはいきません。

 辞書はページ数の多い書物ですから、こういった基本的な組み方をあとで変更するのは、基本的には御法度です。本格的な組みに取りかかる前に、いろいろなパターンを想定して決めていくしかないのです。

 そういえば、編集者さんは、見本組を10回以上も取った、とおっしゃっていましたっけ……

 この四角数字の網掛けの度合いも、30%、50%、70%と3つぐらいは試してみたのかも、などと想像しながら、紙面を眺めてみるのでした。

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2013年12月10日 (火)

ある日の夕食の席で

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 とあるレストランで食事をしておりましたら、机の上に置いてある沢の鶴さんの梅酒の広告に、なんとなく目がとまりました。なんでも贅沢な味わいの梅酒のようなのですが、「生酛造り」というのが、気に掛かります。「酛」という漢字、さて、何と読むのでしょうか。

 お酒を造るもとになるものを指すことは、想像がつきます。「元」を右半分に置く漢字は意外と少ないので、おそらく、日本で作られた国字であろうと予想もできます。とすると、読み方は「もと」で、「生酛造り」で「きもとづくり」とでも読むのでしょう。

 家に帰って調べてみると、「酛(もと)」とは、やはり、お酒のもと「酒母(しゅぼ)」を指す漢字。「生酛造り(きもとづくり)」とは、江戸時代には一般的だった、伝統的な酒母造りの方法のことだそうです。近代化の中で廃れてしまっていたのが、近年、見直されているようで、日本酒の世界ではちょっとホットな用語でもあるようです。

 何の説明も抜きに広告に使うくらいですから、通の間では有名なことばなのでしょう。「生酛造り純米酒で漬けたまろやかなコク」と目にするだけで、飲んでみたいと思わせる力があるのだろうと思われます。

 とはいえ、そんな知識がなくっても、「酛」という漢字を見るだけで、酒造り用語であることは予想ができます。「生酛造り」とあれば、なにやら特別な造り方なのだろうとイメージが湧きます。そうやって、読み方もしかとはわからないのに購買欲を刺激するわけですから、漢字というのも、なかなか罪作りな存在ですね。

 お酒をやめて数年になるぼくの欲望も、ピクリと動かされた次第でした。

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2013年12月 1日 (日)

主人公はだれなのか?

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 目白の界隈を歩いていて、ふと眼にとまったこの看板。「飛び出し」の送りがな「び」を省略するのは、いわゆる「許容」とされている書き方ですが、改めてこう書かれると、「飛出」の2文字で熟語のように見えなくもありません。

 そこで、ふと頭をよぎったのが、この場合の「飛」はどういう意味なんだろうか、という疑問でした。

 すぐに思いつくのは、「すばやく、勢いよく」という意味。「現場に飛んでいく」「全国各地を飛び回る」の「飛ぶ」も、ほぼ同じだと考えていいでしょう。

 ただ、「飛び抜けた成績」になると、「すばやく」とはちょっと異なるような気もします。「順番を飛ばす」「記憶が飛ぶ」「飛び地」といった例も考えると、「全体の中でそれだけが別である」というような意味合いだと考えると、よく当てはまるような気がします。

 まあ、その当否はともかくとして、漢和辞典編集者として考え込んでしまうのは、上記のような意味を、漢和辞典にどう記述すればいいか、ということです。

 「すばやく、勢いよく」という意味は、「飛脚」のような例もありますので、漢字「飛」が元から持っている意味だとして問題はなさそうです。

 一方、「全体の中でそれだけが別である」の方は、はたして漢字「飛」の意味だといえるのかどうか。これは、あくまで日本語「とぶ」の意味であって、それがたまたま漢字「飛」を使って書き表されているだけだ、ということもできるでしょう。

 それは、たとえば、中国ではナマズを指している「鮎」が日本語ではアユを表す、といった例とは、質が少し異なるような気もします。「鮎」という漢字は単独でアユを指し示せるのに対して、「飛」は何かと結び付かないと「全体の中でそれだけが別である」という意味になることはないからです。

 漢和辞典とは、漢字が主人公の辞典です。その中で、こういった用法をどのように記述していくのか。 

 目白界隈を歩きながら、なかなかむずかしい問題だなあ、と頭を抱えたのでした。

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