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2012年7月12日 (木)

辛口と一緒に半世紀

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 青雲の志を抱きながらも、貧しさ故に田舎の小学校の教師となったある青年。きびしい現実から抜け出そうともがいているうちに、やがて病を得て、さびしく死んでいく……。

 田山花袋の『田舎教師』を読みました。国語教科書の巻末に載っている文学史年表には、必ず出てくるほどの有名な作品。メロドラマといえばメロドラマですが、落ち着いた文章で綴られる主人公の生涯にはやはり、胸を打つものがあります。書かれたのは1909(明治42)年。100年の歳月を超えて、人の一生というものについていろいろと考えさせてくれます。

 ただ、読み終わってさらにいろいろと考えさせてくれたのは、新潮文庫版の解説。劇作家の福田恆存(つねあり)が1952(昭和27)年に書いたものですが、驚いたことに「たいくつな小説」とバッサリ!

 たしかに、主人公は自分の置かれた境遇の中でもがきはするけれど、それを変えようという意志がない。作者にも主人公への限りない同情はあるけれど、その不幸の原因を突き詰めようという力強さは感じられない。そういうところが、福田恆存が超辛口の評価を下す理由なのでしょう。

 つまり、お話としてはいいけれど、芸術としてはどうなのか?

 ぼくがおもしろいと感じるのは、新潮文庫がこの作品にそういう解説をくっつけて売っている、ということ。早い話が、店頭で解説を斜め読みしてから文庫を買う、というタイプの読者ならば、買うのをよそうと考える可能性が高いわけです。少なくとも、現在の文庫の解説の「常識」からは、かなり外れた解説でありましょう。

 さらにおもしろいのは、にもかかわらず、新潮文庫の『田舎教師』はいまだに売れ続けているらしい、ということ。ぼくが買ったのは、昨年に出た107刷。「たいくつな小説」というレッテルをくっつけたまま、もう50年以上も読み継がれていることになります。

 とすれば、芸術とはいったい何なのか? 時代と芸術との関係とは?

 そんなことまで考えさせてくれる1冊が、わずか本体400円! 日本の出版文化も、捨てたものではありません。

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