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2012年5月22日 (火)

二字熟語のいたずら

 田口久美子『書店員のネコ日和』(ポプラ社、2010)を読んでいて、ちょっとおもしろい経験をしました。著者は、ジュンク堂のカリスマ店員。その同僚の方が、ある大学に呼ばれて講演した際、一番反応があったのは新書の話だったそうです。

 「だけどサイズの話なんです。『みなさん、新書っていうのは〈新しい本〉じゃなくて、この大きさのことです』って『バカの壁』を出したら、ホーッて声があちこちからいっぱい」

 なるほどなあ。たしかにそういうこともありそうですねえ。

 ただ、おもしろかったのはここで終わりではありません。その先を読んでいくと、ジュンク堂の沖縄店開店準備のお話が出てきて、その中で著者は、理工書担当の店員に次のように訊ねます。

 「どうですか、沖縄の選書は」

 それがなかなかむずかしい。なぜなら、沖縄と本土では植生や生態系が全く違っているから。この悩みは人文書でも同じで、古事記や万葉集、源氏物語や井原西鶴を並べても、沖縄県民に対してはどうなのだろう、と著者は自問するのです。

 このあたりを読みながらぼくが考えていたのは、そうか、書店の棚揃えというのは、そういうことまで考えて行うのか! ということ。でも、選書の理工系の本ってそんなにあったっけ? あるいは、沖縄の出版社が出している理工系の選書があるのか? なんて、かすかなとまどいを抱えながらページをめくると、次のような一文に突き当たりました。

 「選書していると煩悶してしまう、書店という装置で「自分たちの文化」を押しつけているような気がする。」

 そうか、この「選書」っていうのは、書店の棚に並べる「本を選ぶ」ってことだったんだ! 「新書」を「新しい本」だと思いこんでいた大学生を、笑ってはいられないかも?

 「選ばれた本」と「本を選ぶ」ということが同じ「選書」で表されるのは、漢字熟語の特徴。たった2文字でいろいろなことを表現できるのは便利といえば便利ですが、思わぬいたずらをすることもあるようです。

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