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2012年4月 2日 (月)

ものうい春の夜に

 「目覚まし枕」をご存じだろうか?

 ネットで検索していただくとすぐわかるように、セットされた時間になると枕が振動して起こしてくれるという商品である。なかなかのグッド・アイデア! と思いきや、「この程度の振動では起きられません」という方もいらっしゃれば、「ここちよい揺れ具合でかえって二度寝をしてしまいました」という反応もあって、必ずしも大好評というわけではないようだ。

 ただ、これとはまったく別個に、ぼくは漢和辞典の中で「目覚まし枕」に出会ったことがある。

 大昔の中国には、円い木で作った不安定な枕があったらしい。気をつけて横になっているうちはいいけれど、熟睡すると枕が転がって外れ、頭をしたたか打ち付けて目が覚める。これを「警枕(けいちん)」といい、漢和辞典によっては、ひとことで言えば「目覚まし枕」だと解説しているのである。

 1文字で「めざましまくら」を表す漢字もある。

 それは「熲」という字で、音読みではケイ。本来は「きらきら輝く」という意味を表す。眼をらんらんと輝かせることに通じるのだろうか、この字は「警枕」を表すことがあるらしい。そして、有名な諸橋轍次『大漢和辞典』は、この字をズバリ、「めざましまくら」だと説明している。

 不思議なのは、いったい何がうれしくてそんな枕を使うのか、ということだ。

 中国のある王が、戦陣で熟睡するのを防ぐために使った、という話もある。だが、本当に眠たければ枕を外したまま眠り込んでしまうだろうから、たいした効果があるとは思えない。目が覚めるたびに不安定な枕にまた頭を預けるというのは、よほど律儀な人間か、かなりのマゾヒストだけではないだろうか?

 眠っちゃいけないと思いつつ、つい睡魔の誘惑に軽く身を委ね、はっとして目を覚ます。そのくり返しは、たしかにあまいあまい快楽の瞬間だ。「目覚まし枕」とは、その快楽を味わいつくすための枕なのかもしれない。

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